アメリカ大統領選が相場に与えた影響
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2016年11月8日にアメリカで行われた次期大統領選挙。共和党候補ドナルド・トランプ氏と民主党候補ヒラリー・クリントン氏の一騎打ちとなった同日の投開票では、大方の予想を裏切ってドナルド・トランプ氏がアメリカ合衆国次期大統領へと選出されました。
これまでのアメリカ大統領とは、外交政策も経済政策も異なるドナルド・トランプ氏が勝ったことで多方面に衝撃が走っています。もちろんこの結果は為替市場にも大きな影響を与えています。
では、ドナルド・トランプ氏勝利による為替相場への影響はどのようであったのでしょうか?また、ドナルド・トランプ氏が大統領へと就任することで、どのように為替相場は変化していくのでしょうか?
トランプ氏が大統領になると「円高、ドル安」が急激に加速する!?
これまで一般的に、アメリカの共和党は自由貿易主義をとっているため、共和党候補が大統領になると「円安、ドル高」へ動きやすいと言われていました。
その逆に、民主党は保護貿易主義を標ぼうしているため、民主党候補が大統領になると「円高、ドル安」へと動きやすいと言われています。
しかし2016年に行われた大統領選ではそれが一変しています。共和党候補のドナルド・トランプ氏が極端な保護貿易政策を訴えたため、それと比較して民主党候補のヒラリー・クリントン氏の方が自由貿易主義者に見えるようになりました。
そのため、ヒラリー・クリントン氏が大統領に選ばれた場合、為替市場にはほとんど影響を与えないという声が大勢でした。反面、ドナルド・トランプ氏が大統領に選ばれた場合、ドルが売られて「円高、ドル安」が急激に加速すると見られていたのです。
一時的に「円高、ドル安」が進んだものの、結局は「円安、ドル高」の流れに
実際はどうだったのでしょうか?
アメリカの世論調査によりドナルド・トランプ氏が優勢という結果が伝わると、大統領選の数日前からたしかに「円高、ドル安」は進みました。
そして11月9日の開票作業中に「ドナルド・トランプ氏が次期大統領選に勝利する」というニュースが伝わると、世界中のマーケットが荒れに荒れました。
いったんは「ヒラリー・クリントン氏が優勢」というニュースが伝わり、「円安、ドル高」方向へと振れたものの、「やはりドナルド・トランプ氏が優勢」というニュースが伝わり「円高、ドル安」へと戻しました。
そのとき日経平均株価も大暴落し、米ドル/円レートは105円台から101円台まで下落。短時間で激しく円高方向に振れたのです。
このことは、「トランプ・ショック」と名付けてメディアが煽ったことによる影響も大きいと思います。このように煽ったことにより、米ドル/円のロングポジションを保有していたトレーダーがポジションをあわてて決済し、それがより大きな値動きへとつながっていったのです。
しかしこの急変も11月9日の夕方ごろまで。ドナルド・トランプ氏の勝利がほぼ確実だというニュースが伝わってきてからは、米ドル/円レートは元の水準へと値を戻していきました。
さらにはNYダウも大幅プラスで引け、日経平均株価も暴落前よりも高値で引けています。つまり、大局的に見れば「とくに何も起きなかった」という状態になったのです。
翌日以降も「円高、ドル安」方向へと動いていくといったことはなく、その逆にどんどん「円安、ドル高」方向へと動いていき、そのまま2016年の為替相場はほぼ締めくくられようとしています。
「トランプ・リスク」はなかった?
「ドナルド・トランプ氏が大統領に選ばれた場合は『円高、ドル安』へ動く」とみられた理由はいくつかあります。
まずは、アメリカ大統領選挙の年はアメリカの株価が急上昇し、ドルが安くなりやすい傾向があるということ。これは政権与党候補が大統領になった場合に、特に当てはまることなのですが、理由としては「少しでも景気の良い状態で選挙を迎えたい」というアメリカ政府の思惑が入っているからだと言われています。
また、ドナルド・トランプ氏の持論である金融政策も「円高、ドル安」材料と見られていました。その金融政策とは「低金利政策」です。アメリカが低金利を維持していくとなればキャリートレードも行われず、したがって「円高、ドル安」材料となるわけです。
さらに、大統領選前はドナルド・トランプ氏が持つ極端な保護貿易政策が「トランプ・リスク」だと考えられていたため、ドナルド・トランプ氏が大統領に就任したら「円高、ドル安」が進むだろうと見られていたのです。
そのほか、マーケットでは「Brexit(EU離脱)」の経験から「トランプ・リスク」を警戒したとも言われています。
「Brexit」とは、2016年6月23日に行われた「イギリスにおけるEU(欧州連合)離脱の是非を問う国民投票」で、大方の予想を破り「EU離脱」への投票が多かったことから名付けられた造語です。
当初は「Bremain(EU残留)」が優勢だと報道されていたことから、英ポンド/円は一時160円台、米ドル/円は106円台後半まで急騰していました。しかし、「Brexit」が確実だという報道が流れると、英ポンド/円は一気に133.42円まで暴落、米ドル/円も一時99.11円まで暴落するといった事態へと陥りました。
もしドナルド・トランプ氏が大統領に当選すれば、「Brexit」の再来が起こるのではないか、と考えられていたわけです。
このような事態を警戒して、各FXブローカーでもトレーダーに対して「米大統領選では為替相場の急変に注意」といったお知らせを発表しています。
なかには、法人トレーダーに向けて一時的な取引制限を導入したFXブローカーも存在しました。
「トランプ・リスク」は「トランプノミクス」へ
しかし蓋を開けてみれば、「Brexit」の再来も、「円高、ドル安」が進むという懸念も、杞憂に終わりました。
ドナルド・トランプ氏が、大統領選の「勝利宣言」で経済優先の姿勢を鮮明にしたことで米株式市場が大幅に上昇したのです。その流れに乗り、為替市場でも「円安、ドル高」方向へと大きく動きました。
そして日本でも「円安、ドル高」への好感から、輸出関連株や金融株を中心に買いが膨らみ日経平均株価も上昇しています。
このような結果から、現在では「トランプ・リスク」と言われることはなくなり、「トランプノミクス」への期待が高まっています。
「トランプノミクス」とは、ドナルド・トランプ氏が主張しているインフラ投資、大型減税、金融規制緩和などが実現されれば「アメリカの経済が活性化し景気が良くなる」と考えられていることから名付けられました。「レーガノミックス」「アベノミクス」と同じような造語です。
「トランプノミクス」で打ち出す経済政策が為替相場を左右する
とはいえ、ドナルド・トランプ氏が実際にアメリカ合衆国の大統領に就任するのは2017年1月20日のことです。
またその後も、アメリカでは新大統領就任から最初の100日間は議会も協力的な姿勢で臨む「ハネムーン期間」が慣習化しています。
現在、アメリカ国内では「トランプ・ユーフォリア(高揚感)」と呼べるような状況が続いていますが、今後、大きな問題が発生しなければ同じような状況が4ヵ月程度は続くわけです。
しかし、「トランプノミクス」の詳細が明らかになるのは2017年に入ってからです。そのとき、具体的な経済政策が打ち出されなかったり、マーケットの予想を裏切るような経済政策だったりした場合には、「円安、ドル高」基調が反転する可能性もあります。
相場を見極めるのは、もう少し待ったほうが良さそうです。