FXブローカーと規制当局の関係
オフショア市場への営業シフトの背景
海外FXブローカーの営業方針は時代の流れと共に変化を余儀なくされている。AnzoCapitalやVantageFXが日本市場から撤退する一方で、FBSがオーストラリアでFX・CFD取引サービス提供を開始したり、ThinkMarketsが日本でのサービス開始方針を打ち立てるなど、各ブローカーの動きは目まぐるしい。
そんな中、昨今は多くの海外FXブローカーがそれまでの規制当局にライセンスを返上し、オフショア市場に営業拠点をシフトする潮流がある。
海外FXブローカーがライセンスの変更・追加をするのはよく目にするニュースである。ここ数年では、Titan FX以外にもeasyMarketsやExness、FXCMが新たな金融ライセンスを取得した。
しかし、一度ライセンスを取得してしまえば、変更・追加を行わなくてもよさそうなものだが、なぜこれほどまでに動きが活発なのだろうか?
それは、ライセンスの変更・追加が新たな国でのサービス提供に関わっているからだ。
FXブローカーがサービスを行うためには、各国の規制当局が発行する許認可が必要となる。例えば日本の場合、金融商品取引業者として金融庁(FSA)の許認可が必要とされており、許認可を受けたブローカーは、その規制当局により経営状態や資金管理方法が厳しく管理、監督されることとなる。
規制当局が厳しくライセンシーを監督するのは、資金を委託する顧客保護のためであり、規制当局は、顧客が預けた資金が正しく運用されていなかったり、支払能力に問題があると判断した場合、改善要求、行政指導、ライセンス停止など、ライセンシーの営業に対しての強制力を持つ。
これらの規制当局は、各国の行政組織によって運営されており、基本その行政が管轄する地域における自治権として機能していたのだが、インターネットが出現しオンライン取引が一般化されてから、この自治権がライセンシーに対して強制力を持たなくなってきた。なぜなら、トレーダーは、自国のブローカーのルールに依存すること無く、トレーダー自身の取引スタイルやトレード条件を見比べ、より有利でサービスの良い世界各国のFXブローカーと自由に取引ができる環境を選択できるからである。
その為、国家間に対し自治権が及ばない(内政不干渉の原則
から)規制当局の存在が、ブローカーにとっては自由競争の妨げとなる存在となってしまった。これが、オフショア市場に営業拠点をシフトするブローカーが急激に増えてきた背景であり、FXブローカーは、顧客獲得のため、より規制が緩く独自の営業展開がしやすい国へのシフトを進めている現状がある。
オフショア市場における主な規制当局
近年、FX取引(外国為替証拠金取引)の許認可を行う、オフショア市場の規制当局には、次の監督機関が代表的なものとなる。
オフショア市場の主な金融監督機関
国/監督機関 | 代表的なブローカー |
英領バージン諸島 BVIFSC(金融サービス委員会) |
IFC Markets、FBS、AVA Trade、iForex |
ケイマン諸島 CIMA(ケイマン諸島金融庁) |
Tradeview、VANTAGE FX |
セーシェル共和国 FSA(セイシェル金融サービス庁) |
XM、Tickmill、HotForex、IC Markets、Exness |
バハマ国 BFSB(バハマ金融サービス庁) |
FxPro、ActivTrades |
バヌアツ共和国 VFSC(バヌアツ金融サービス委員会) |
Titan FX、MiltonMarkets |
バミューダ諸島 BMA(バミューダ金融局) |
FXDD、Traders Trust |
ベリーズ IFSC(国際金融サービス委員会) |
AXIORY、24options |
マレーシア(ラブアン) LFSC(ラブアン金融庁) |
Big Boss |
モーリシャス共和国 FSCM(金融サービス委員会) |
MYFXMarkets、FXTM |
ここにあげた規制当局は、オフショア市場のなかでも、現地事業所の設置義務や定期的な報告義務がある程度免除されており、他国の規制当局と方針を同調しないライセンサーを「オフショア市場の規制当局」としてまとめている。
規制当局によって、ライセンシーに対し厳守させるルールも様々である。殆ど報告義務を課さない規制当局もあれば、STP以外の取引を禁止するルール(マレーシア)、外部監査機関の監査を義務とするルール(バヌアツ共和国)、ライセンサーの運営に対し、現地の有識者責任者の任命を必要とするルール(モーリシャス)など、規制当局によって一定のライセンスガイドラインが設けられている。
以前は、キプロス共和国(CySec)や、マルタ(MFSA)もオフショア市場として人気があったのだが、2017年頃よりMiFIDに準ずる国々と歩調をあわせたことから、拘束されない環境下での事業展開を求めるブローカーにとっては、魅力の無い規制当局となっている。
バヌアツとモーリシャスの2か国のライセンスを取得
Titan FXは、バヌアツ共和国の金融ライセンスで営業してきたのだが、2021年10月25日に新たなライセンスとしてモーリシャスの金融ライセンスを取得したと発表した。
日本人向けはVFSCで営業
Titan FXはバヌアツとモーリシャスの2か国のライセンスで営業を行っていくことになる。 ただし、2つのライセンスはTitan FXグループ内の別会社が保有している。
会社名 | ライセンス |
Titan FX Limited | バヌアツ金融サービス委員会(VFSC) |
Titan Markets | モーリシャス金融サービス委員会(FSC) |
日本人の顧客は引き続きバヌアツライセンスが適用されるので、日本人向けのサービスが変更されることはない。
アジア・アフリカへのサービス拡大
先述したが、海外FXブローカーのライセンス取得の裏側には、新たな国でのサービス拡大を狙っているという背景がある。もちろんTitan FXも例外ではなく、今回のモーリシャスライセンス取得について、アフリカとアジアの顧客により魅力的なサービスを提供する目的だということを明らかにしている。
現に、サービス拡大の準備は進められており、2020年まで、英語・日本語・中国語・スペイン語の4か国語しか対応していなかったが、2021年に入り新たにベトナム語・タイ語・韓国語の3か国語が追加された。
Titan FXがよりグローバルなFXブローカーになることで、さらなるサービス拡大への期待感も高まることだろう。
VFSC(バヌアツ金融サービス委員会)
日本人の顧客に対して適応されるVFSCだが、バヌアツ共和国自体は、所得税・法人税・相続税などの制度がなく、世界的にも有名なタックス・ヘイブン(租税回避地)の地であり、これまでも、大資本のヘッジファンドや、節税したいグローバル企業、バイナリーオプション業者などの聖地となっている。
先ほども述べたが、VFSC(バヌアツ金融サービス委員会)は、ライセンシーであるブローカーに対し、第三者による定期監査義務や顧客情報の保護方針の報告義務を課している。また、ライセンスの取得にあたっても、法人代表者、株主、スタッフの身元調査、担保供託、紛争解決、公正取引の義務付け等、オフショア市場の規制当局の中でも、比較的厳格な審査要件が求められている。
では何故、今、VFSC(バヌアツ金融サービス委員会)にライセンスを申請するFXブローカーが後を絶たないのか。
そもそも、オフショア市場へFXブローカーがシフトする背景は、顧客獲得のため、より規制が緩く、独自の営業展開がしやすい規制当局を求める事からだったはずだ。
この点、相反する営業政略のように思えるのだが、実際にVFCSの監督下に営業を移行したFXブローカーはどう考えるのか?今回、VFSCのライセンシーとして代表的なブローカー「Titan FX」社にこれらの経緯と今後の戦略について、インタビューを実施した。