FXブローカーと規制当局の関係
オフショア市場への営業シフトの背景
昨今、多くの海外FXブローカーが、それまでの規制当局にライセンスを返上し、オフショア市場に営業拠点をシフトする潮流がある。先日も、中規模ブローカーのActivTrades、FxProは、オフショア金融センターであるカリブ海のバハマに営業拠点を設け、規制当局が変わったばかりである。
元より、FXブローカーがサービスを行うためには、各国の規制当局が発行する許認可が必要となる。例えば日本の場合、金融商品取引業者として金融庁(FSA)の許認可が必要とされており、許認可を受けたブローカーは、その規制当局により経営状態や資金管理方法が厳しく管理、監督されることとなる。
規制当局が厳しくライセンシーを監督するのは、資金を委託する顧客保護のためであり、規制当局は、顧客が預けた資金が正しく運用されていなかったり、支払能力に問題があると判断した場合、改善要求、行政指導、ライセンス停止など、ライセンシーの営業に対しての強制力を持つ。
これらの規制当局は、各国の行政組織によって運営されており、基本その行政が管轄する地域における自治権として機能していたのだが、インターネットが出現しオンライン取引が一般化されてから、この自治権がライセンシーに対して強制力を持たなくなってきた。なぜなら、トレーダーは、自国のブローカーのルールに依存すること無く、トレーダー自身の取引スタイルやトレード条件を見比べ、より有利でサービスの良い世界各国のFXブローカーと自由に取引ができる環境を選択できるからである。
その為、国家間に対し自治権が及ばない(内政不干渉の原則
から)規制当局の存在が、ブローカーにとっては自由競争の妨げとなる存在となってしまった。これが、オフショア市場に営業拠点をシフトするブローカーが急激に増えてきた背景であり、FXブローカーは、顧客獲得のため、より規制が緩く独自の営業展開がしやすい国へのシフトを進めている現状がある。
オフショア市場における主な規制当局
近年、FX取引(外国為替証拠金取引)の許認可を行う、オフショア市場の規制当局には、次の監督機関が代表的なものとなる。
オフショア市場の主な金融監督機関
国/監督機関 | 代表的なブローカー |
![]() 英領バージン諸島 BVIFSC(金融サービス委員会) | IFC Markets、FBS、AVA Trade、iForex |
![]() ケイマン諸島 CIMA(ケイマン諸島金融庁) | Tradeview、VANTAGE FX |
![]() セーシェル共和国 FSA(セイシェル金融サービス庁) | XM、Tickmill、HotForex、IC Markets、Exness |
![]() バハマ国 BFSB(バハマ金融サービス庁) | FxPro、ActivTrades |
![]() バヌアツ共和国 VFSC(バヌアツ金融サービス委員会) | Titan FX、MiltonMarkets |
![]() バミューダ諸島 BMA(バミューダ金融局) | FXDD、Traders Trust |
![]() ベリーズ IFSC(国際金融サービス委員会) | AXIORY、24options |
![]() マレーシア(ラブアン) LFSC(ラブアン金融庁) | Big Boss |
![]() モーリシャス共和国 FSCM(金融サービス委員会) | DealFX、MYFXMarkets、FXTM |
ここにあげた規制当局は、オフショア市場のなかでも、現地事業所の設置義務や定期的な報告義務がある程度免除されており、他国の規制当局と方針を同調しないライセンサーを「オフショア市場の規制当局」としてまとめている。
規制当局によって、ライセンシーに対し厳守させるルールも様々である。殆ど報告義務を課さない規制当局もあれば、STP以外の取引を禁止するルール(マレーシア)、外部監査機関の監査を義務とするルール(バヌアツ共和国)、ライセンサーの運営に対し、現地の有識者責任者の任命を必要とするルール(モーリシャス)など、規制当局によって一定のライセンスガイドラインが設けられている。
以前は、キプロス共和国(CySec)や、マルタ(MFSA)もオフショア市場として人気があったのだが、2017年頃よりMiFID
に準ずる国々と歩調をあわせたことから、拘束されない環境下での事業展開を求めるブローカーにとっては、魅力の無い規制当局となっている。VFSC(バヌアツ金融サービス委員会)
バヌアツ共和国自体は、所得税・法人税・相続税などの制度がなく、世界的にも有名なタックス・ヘイブン(租税回避地)の地であり、これまでも、大資本のヘッジファンドや、節税したいグローバル企業、バイナリーオプション業者などの聖地となっている。
先ほども述べたが、VFSC(バヌアツ金融サービス委員会)は、ライセンシーであるブローカーに対し、第三者による定期監査義務や顧客情報の保護方針の報告義務を課している。また、ライセンスの取得にあたっても、法人代表者、株主、スタッフの身元調査、担保供託、紛争解決、公正取引の義務付け等、オフショア市場の規制当局の中でも、比較的厳格な審査要件が求められている。
では何故、今、VFSC(バヌアツ金融サービス委員会)にライセンスを申請するFXブローカーが後を絶たないのか。
そもそも、オフショア市場へFXブローカーがシフトする背景は、顧客獲得のため、より規制が緩く、独自の営業展開がしやすい規制当局を求める事からだったはずだ。
この点、相反する営業政略のように思えるのだが、実際にVFCSの監督下に営業を移行したFXブローカーはどう考えるのか?今回、VFSCのライセンシーとして代表的なブローカー「Titan FX」社にこれらの経緯と今後の戦略について、インタビューを実施した。