中国農業銀行、ATMを用いたデジタル人民元のトライアルを実施
仮想通貨関連
銀行口座を介したCBDCの入出金が実現する可能性
中国4大国営銀行のひとつである中国農業銀行(Agricultural Bank of China)【以下、ABCと称す】が、深セン市内のATMを用いて中央銀行発行の独自仮想通貨(Central Bank Digital Currency)【以下、CBDCと称す】であるデジタル人民元のトライアルを実施していることが明らかになった。
地元メディアの報道によると、ABCは顧客がATMを通じて当座預金口座および普通預金口座に対してデジタル人民元の入出金を行うことを可能にしたという。これまで深セン市では蘇州市と併せて2,000万元(約300万ドル)相当のデジタル人民元が宝くじ形式で配布されるなど、複数回に亘ってトライアルが実施されてきたが、今回のABCによる試みもその延長線上にあるようだ。
中国内の主要な銀行は、中国人民銀行(People's Bank of China)【以下、PBoCと称す】が主導するデジタル人民元のイニシアチブに参加しており、過去にABCもCBDCのテストアプリを開発していると噂されていた。更に最近、ABCはデジタル人民元関連のソリューション開発を目的とする拠点を深セン市に設立し、国内市場でのイノベーションを加速させている。
PBoCは他国に先駆けてCBDC発行を実現するためにデジタル人民元の開発を推し進めているが、今回のABCのトライアルがどのような成果につながるのか、今後も中国での展開に注目していきたい。
official release 2021.01.13
ニュースコメント
主要国初のCBDCとして期待がかかるデジタル人民元
中国がデジタル人民元の発行に突き進んでいることを受け、世界各国はCBDC開発に力を入れ始めている。バハマ中央銀行がサンドダラーを正式導入するなど、中には既にCBDCの実用化に漕ぎ着けた国家も存在するが、いずれも流通が限定的で規模が小さく、グローバルな金融システムや他国に影響が及ぶものではないと言えるだろう。同じくベネズエラでもCBDCとしての性質を持つペトロ(Petro)が運用されているものの、トランプ大統領が米国民にペトロの取引禁止を通達するなど、経済制裁の影響もあって国際的な通貨としての役割を果たせていないのが現状だ。その点、デジタル人民元は中国と貿易を行う企業や国家によって世界的な需要が生じると考えられており、主要国が発行する初めてのCBDCとなる可能性を秘めている。中国政府およびPBoCは同仮想通貨の開発を成功に導くことができるのか、今後もその動向に注目していきたい。

米大学で出会った金融学に夢中になり、最終的にMBAを取得。大手総合電機メーカーで金融ソリューションの海外展開を担当し、業界に深く携わる。金融ライターとして独立後は、仮想通貨およびブロックチェーン、フィンテック、株式市場などに関する記事を中心に毎年500本以上執筆。投資のヒントになり得る国内外の最新動向をお届けします。